2015年10月27日火曜日

連続Blog小説「レジェール 〜そのリードは最強か」 第4話

「ケーンのリード、略してケーンです。小市民じゃねえよ?
なんかしゃべれって言われて来てみたわけだが、あんま俺しゃべんないんだよ。前回までの話って言われても難しいな・・・
要は、Kがレジェールとか言う若造樹脂製リードに入れ込んでたんだけどな、その関係が崩れるかもしれないなっていうのが前回までの話だ。こんなとこで良いか?
・・・え?俺とレジェールが共存出来るのかって?
同じ瞬間には出来ない。リガチャーがマウスピースに固定できるリードの数は、ひとつだけだ。
それもそうだろ?2つ出来たらダブルリードになっちまう。ま、2枚付けられるんだったらそもそもマウスピースもリガチャーも要らなくなっちまうが、んまぁ俺たちはチームだからな。あいつらが、俺には必要なんだ。
さて、今回これが最終回らしいじゃないか。ここまで俺はKを見守ってきたわけだが、まあ俺のところに戻ってくるっていうんだったら、俺は一向に構わない。基本的に、去る者追わず、来るもの拒まずってなスタンスだし、な。」


・v・


怪訝そうな表情で、レジェールが言った。
「どういうことだよ。俺は、タフなリードだぜ?」
レジェールを横目にやりながらも、Kはケーンのリードのパッケージを手にし、開けようとしていた。
「確かにあなたは、ケーンっていう草食系なんかにはないタフさがあるわ。肉食べないけど肉食系よ。私がガツガツいこうと、対応してくれるし、ツッコミの切れもいいし。」
「・・・そこまで褒められるとちょっと照れるんけどな。」
「でも、やっぱり大きな音を吹こうとすると、時々耐えられてないのよ。だから音が潰れてしまうし、それはつまり表情の豊かさがなくなる。でも私はそんなあなたを見たくないの...!!!
そう思ったら、いつの間にか自分を抑え込んでいたの。それでもしばらくは上手くいってたと、そう思っていたから・・・。」
リードのパッケージを開ける手を止めようとしない。Kはそのまま、小分けにされているリードたちを自分の元に迎い入れようと開封していく。
「でもある日、気がついたの。なんか最近ヘタってくるなって、そう思うことが多くなってきて。それも吹き始めて結構早いタイミングで。」
「ヘタるってなんだよ!トマトのヘタか!」
「そういうこと言ってんじゃないの!!! しなってくる!音が薄くなってくる!貧相な音しか出てこなくなる!こう言えばいいの!!??」
そう言うKの目には、涙のようなものがうっすらと見えた。
「それは・・・ ただ、俺のせいかもしれない・・・。
そうだ、多分それは俺のせいってだけで、他のレジェールに言えばそんなことはないぞ、あぁ、そうだ、そうに違いない。だからほら、五代目のレジェールを買えば・・・!」
耳は貸す、がしかし、Kの手は止まらない。
「もう・・・ 終わりなのか・・・? 俺たち・・・」
ちら、と視線をやったKは言い放つ。
「別に。」
「なんか・・・ 言ってくれよ・・・」
「特にありません。」
「エリカ様かよ。」
「まあ、」開封したばかりのケーンのリードをつけ、リガチャーのネジを締めながらKが言う。
「別にあなたを使わないなんて、一言も言ってないわ。」
「・・・え?」
レジェールは、一瞬彼女が何を言っているのかわからなかった。
「だから、ケーンに一本化するなんて、誰が言ったの。」


・v・


このやり取りの1時間前のことである。
Kは楽器店に居た。
自分の欲しい音が出ない。ー確かに、弘法筆を選ばずなどというものの、道具のチョイスは大きく演奏に反映される。特にリードという、音の源ともなれば特にそうである。
欲しい音を出すには。どうすればいいか。
彼女は、今の居心地の良いコンフォータブル・ゾーンから一歩外へ出てみようと思ったのだ。となると、マウスピースか、リガチャーか、リードか。
迷った末、先生の助言もあってリードを変えてみることにしたのだった。
「それをそのまま継続して使わなくてもいいと思う。ただ、違うものを使うことで、新しいインスピレーションを受けるというのは、悪く無いと思う。」
この一言が、Kを楽器店にまで連れて行ったと言っても過言ではないだろう。

気がつくと棚に所狭しと並ぶリードを取り、ぢっと手を見る。
「・・・啄木か、って突っ込んでよ・・・」
ケーンに向かって話しかけた。
「ていってもなあ。俺フランスの工場から真空パックされて日本来てるから、まだその日本式のノリツッコミ慣れてないんだよ。」
「じゃあエスプリの1つや2つきかせなさいよ・・・!」
「・・・ザブジュバン・・・」
「は?!」
「・・・ァザブジュバン・・・」
「わかりづらッッッ!!!!」
ていうかそれ、エスプリと言えるのか。Kはものすごく問いたかったが、
「良いのか? 俺はレジェールみたいな反応の良さもタフさもツッコミの鋭さもないぜ。もしかしたらそんなヤツがパラパラいるかもしれないが、な。」
と続けられたので我慢し、答えた。
「別に・・・。 アナタだけを使うわけじゃないから。」
「は?」
「まあいいから。私んとこ来なさいよ。」
ケーンはそのまま、レジに連れて行かれた。


・v・


数日後。
Kの楽器ケースの中には、レジェールとケーンのリードが共存していた。
「一体どぉなっちゃってんだよ。」
レジェールがケーンに話しかける。
「何でお前と俺が共存してんだって言ってんだよ、おーい」
「お前よくしゃべるなー、レジェールだっけ?」ケーンCが答えた。
「いや、その前に岡村ちゃんかー!って突っ込んでくれないかなあっ。ったく、お前ら10本もいりゃあよぉ、そういうツッコミ出来るやつもいるだろ?なあ?」
といっても、レジェールと違って彼らは実際に音を出してみないとどんな音を出してくれるのか、どういう状態なのかよくわからない。言わばポーカーフェイスなのである。
「まあツッコミは良いや。ところで、俺たちこのあとどうなんの?」
「・・・お前、所詮樹脂だな。」
ケーンのリードDが呆れながら言った。
「お前は今後、俺たちと一緒だ。俺らは基本1箱に10本入っている、いわば10人でひとチームであり、ローテーションしながら使われ、選別されていく。
お前は今まで、言わば"ヘビロテ"でずっと使われてきたがな、その一人勝ちはここまでだ。お前は、ローテーションの、言うなれば11本めになるんだ。」
「・・・え? 俺も歯車的な感じで回るわけ??」
「そう。しかもお前の場合、俺達と違ってトクサで削ったりとか加工出来ない分、考えようによっては柔軟性に欠けるってわけだ。」
「そんな・・・! で、でもタフさなら、」
「キミの方が上だって? そうとも限らないと思うけどね。だからこそ、僕らは5本とか10本とか入ってるし、こっちは戦略で勝負出来るからね。」
ケーンEは軽そうなクセにチクチクとつついてくる。どうも、うる星やつらだ、などとレジェールは思っていた。

「だ、だったら勝負だ!11月7日土曜日 新百合ヶ丘の昭和音大サクソフォーンオーケストラの本番で、Kはどっちを使うと思う?え?
やっぱ乗り番がそれなりに多くてってなったらケアが簡単な俺だ。あぁ、そうに違いない!」
テアトロ・ジーリオ・ショウワにて14:30開演のあれか? だからこそ、俺の出番じゃないのか?あいつ、きっとその前の文化祭あたりで試して、俺たちを選ぶと思うけどな。」
「でもまだ時間はある。ってことは、もしかしたら他のレジェールを選んで使ってくれるというパターンもあるな!5代目・・・!」
「でも5代目って徳川だったら綱吉だろ、生類憐れみの令、ってことはやっぱり生物の僕らにも勝ち目があるってこと?」
ケーンFはどうやら歴史に詳しいようだ。
「徳川かよ!!!!!!! Kは歴史に弱いからな!!!それはないと思うぞ!!!はんっ!!!」


そんなやり取りを知ってか知らずか、Kは今日もいい音であるか自問自答しながらも、理想に向かってひた走るのであった・・・。

「吹きづらッッ!!!」


<< 完 >>


キャスト:
K- サックス専攻の音大生。外食のメニューは10秒程度で決める、自称即決女子。
レジェール- 樹脂製のリード。状態変化が少なくタフさを自負する、自称最強のリード。
ケーン- ケーン(植物)から作られたリード。音の良さでは定評のある、自称老舗リード。
男女- 夜な夜なバーで語り合う、暇な人達。

〜この物語は個人的な主観を元にしたフィクションです。
実在の個人・団体とは一部を除き一切関係ありません。



人気ドラマだとこのへんで「映画化決定!!」だな。

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