もうひとりの私が図1左上のコーヒーカップをソーサーの上に置きながら言った。
図1 |
「いろいろ食べられていいねえ、コレ」
「そうじゃなくて。兼六園に行くとかいかないとか言ってたじゃない。」
「ああ、行きましたよ。日本最古の噴水があるっていうんでカメラで撮りまくって、
白黒も奇抜な色のも撮った。 |
泳ぐ鴨を見つつ水面に写る雪吊りを見たり、
もうなんか切実すぎるメッセージを思わず撮ったり、
「砂浜にメッセージ書くっていうのは知ってるけど、雪に書くとは・・・ 儚いわね。」
「溶けるからね。」
「でもこうして写真に撮ってBlogに載せるなんてした時点で、この叫びは永遠のものになったわけね。」
「誰が書いたのかわからんけどね。」
「そんで?」
「その後?その後は・・・」
といって思い出すと、ひたすらここまで歩いた記憶しかない。しかもその歩いた時間の3分の1ぐらいは、実は無駄足でしたというオチであった。
まず、兼六園を出た私は、店の前を通るとそのお店のおばさまたちがまるでオート化されたかの如く、「お抹茶いかがですか〜」「暖かいですよ〜、さ、いらっしゃいませー」と呼び込みに出てくる通りを抜け、地図を見ながら次なる目的地へと向かうのだが、どうやらGoogle先生の示す方と私の歩いている方向が違う。
これが世に言う、方向音痴誕生の瞬間である。
いつもはだいたい勘で歩き出すと方向があってるのだが、今回の旅は最初の美術館へと向かう時も、やはり反対方向に歩き出していた。すぐさま気がついたから良かったものの、携帯のマップを過信することも、とはいえ自分の勘を信じることも出来ず、もう、何も信じることなど出来ない・・・ 人間不信ならぬなにもかも不信に陥りながらこの旅は始まっていた。
この頃になると、ああ、寒い、帰りたい、帰りたいよぉ・・・ でもフライトは18時なのだ・・・ そしてこの孤独と向きあえば、私はまた強くなれる、と、哲学的なのか松岡修造的なのか、はたまたその両方なのかという思想を頭のなかで展開しながら、結局はやはり携帯のGoogleマップを頼って歩き出していた。
「で、ここにおみやげを買いに来たついでにお腹がすいたから、観光名所とも言われる市場を横目にここで温まりながら図1のランチを堪能している、と?」
仕上げに抹茶シフォンケーキを食べながらもう一人の私は聞いてきた。
「そんなところです。ていうか食べないでくださいよ」
「いいじゃないあなた抹茶嫌いでしょ」
「いや、ここまで来たら食べますから。ていうか最近そうでもないから」
「嘘ね。だって兼六園でお抹茶とお茶菓子をいただけるところを何度も通りながらも抹茶苦そうだからなあと当り障りのない当たり前なコメントをして去ったじゃない。」
頭のなかで自分とつまらない論争を繰り広げていたところ、店内にひとりの女性が入ってきた。
制服のようなものを着ていて、察するにここの商業ビルに入っている他のお菓子屋さんの店員と思しき格好である。
女性は、
「急に食べたくなってしまって。」
と照れ笑いをしながら、このレストランの店員にオーダーをした。
ふと、その時
「今日は、過ごしやすいですね」
と、声がした。
しばらくして、私に話しかけられているものだと自覚した時には、
「そうですね」
と答えていた。さっきまで凍えていたのはどこの誰なのか。
とはいえ、確かに警戒していたほどではなかった。
雪がザーザーと、ーそう、しんしんと、ではないぐらいー降り積もり、今回の旅の主題歌は松任谷由実のブリザードになるのかと思っていたが、結局のところそんなことはなかった。
翌々聞かなくとも、その女性は金沢市民であり、今日の気候は暖かいほうであるようだったが、私が神奈川から来ました、ということを告げると、彼女は目を丸くした。
「ならばとても寒いのではありませんか?」
と、聞かれたが、思ったほどではないので安心したと返した。
会話はそれで一段落し、彼女のもとへオーダーした甘味が置かれた。
彼女が店を去るとき、私に「ごゆっくり。楽しんでって下さいね」と言い残していった。
そのときの彼女は、私という観光客に対して"おもてなし"をしてくれたように思う。
私は小さくお辞儀をして、彼女が去っていくのを見ていた。
自分の地元にお客さんが来たら、何が出来るのだろうか。
会計を済ませ、再び寒空の中歩き出した。
歩いていると、先日Twitterでご紹介頂いた金沢蓄音器館に辿り着いた。
ここまで読んで頂いたあなたならわかるだろう、全くの無計画旅なのだ。
なので、紹介してもらってWebサイトまで見ながら、場所の確認をろくにしてなかったのだ。
それでも辿り着いた、ーこれは運命なのではないか、と思って表を見てみたら、大丈夫、ちゃんとやっていた。
がしかし、蓄音機を実際にお聞き頂けますの時間は1時間前に終わっていた。次のを聞いたら、フライトを逃してしまうため、ここもやはり再訪せねばならない。
嗚呼、無計画旅。
そうして歩いていると、ついに、私が探している風景が出て来た。
そう、それは、風情ある金沢の町並み、である。
は・・・!絵に描いたような風情ある町並み!!しかしながら観光地化されていない、少々厳かな雰囲気を残しつつ、のこの町並みである。
早速私はカメラをトイカメラモードにし、
撮った。
少々ダークネスな感じというか、お手軽に"味がある"風に撮れる、ってやつである。
しかしこれはまだ、片鱗に過ぎない。
もっそい「街角」なのだ。
そうしてしばらく歩いていると、出会った。
風情のある金沢の街、観光地化されている編、である!!
どうしよう、私は少しうろたえた。
風情のある町並みが現れた!
たたかう・あるく・どうぐ・逃げるのオプション!
どうぐは勿論、
カメラである。
撮るべし!!!
撮るべし!!!
撮るべし!!!
撮るべしィィィィィィ!!!!!!!!
と、一人旅で一見寂しそうに見えそうだが、心のなかではヾ(*´∀`*)ノキャッキャしていた。
キャッキャ、と変換したら一発目に顔文字が出てしまった。恥ずかしい。
だんだんとフライトの時間が近づいてきたこともあって、ここから歩いてJR金沢駅まで20分ほど歩いてみることにした。
Google先生のマップによると、裏道のようなところを行くと、ごく普通の住宅街のようなところを通り抜けたりした。
そしてこの写真のメッセージに辿り着いた。
この時、日本だけでなく、世界が悲しみの中にくれていた。
邦人2人が人質に取られ、2人の生還がほぼ絶望的と言われていた時期だった。
このメッセージを出した住民がどの方なのかはわからない。
どういう思いでこれを出したのかもわからない。
聞けばよかったかもしれないが、想像してみることで、深読みをして自分なりに咀嚼してみることにした。
そう思ったか?
「それは今、世界中で誰もが一番欲してるものであってほしいな」。
その民家にハッとしたのもつかの間、歩いて歩いて、ついに出くわした。
現代建築的な金沢駅が現れた!!!
どうする? たたかう・あるく・どうぐ・にげる
まあ、あるく、と道具→カメラである。
金沢には、先ほどの趣きのある風景と、こうした現代建築とが同居しており、非常に興味深い街であった。
今思うと、先日赴いたオランダもそういうふうがあり、伝統的な町並みと、奇抜な建築とが同じ街に存在している。
非常にアンバランスなようで、しかし均衡が保たれている風でもある。
一見相反しているようなふたつのものがこうして共生している街というのは、いったいどういうことなのだろう。
ますます、興味を持った。
やや早かったが、バスの時間の関係でフライトの1時間半ほど前に金沢駅を出るバスに乗って空港に向かった。
思ったよりも多くの人がバスを利用しており、随分と金沢全体が賑わっていたように思う。何せ、この日は平日で、しかも美術展などの施設は休館日というのが多いにも関わらずここまで人がいたとは、思ってもみなかったのだ。
「また来ないといけないわね。」
もうひとりの私が言った。
「言わずもがな。」
「今度は、月曜じゃない日にね。」
「皮肉かッ。」
「違うわ。あなたの学習能力にわずかな期待をして言ってるのよ」
「学習能力ねえ。」
ため息混じりに自分の今日の旅を反芻した。
「またいらっしゃいよ。」
もうひとりの私がそう呟いた。
そしてそれを言い終わると、もう一人の私はこれ以上何も言わなくなった。
その代わりに聞こえてきた、「羽田行き18時10分、ただいまより搭乗手続きを・・・」というアナウンスに、私は席をたった。
金沢に、多すぎる後悔を残したまま。
<< 完 >>
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