2015年10月25日日曜日

連続Blog小説「レジェール 〜そのリードは最強か」 第1話

サクソフォンを鳴らすもの。

それは、リード。

リードが振動し、あの管体から音が出るのである。

もっとも、昨今では逆手に取ったかのように、マウスピースやリードを必要とせず、まるで金管のマウスピースよろしく唇の振動で音を鳴らすという現代曲もあれど、やはり歌口であるマウスピースにリードをつけ、それをリガチャーと呼ばれる器具で固定する。
その三位一体があって、音はなるのである。


そのリード。
ケーンという植物から作られており、今現在国産のリードは存在しない為輸入に頼っている状態である。
植物というナマモノであるが故に、使っていると状態変化が著しく半永久的に使えるものなど存在しない。

ーと、されていた。


しかし時は流れ、今日ではその常識が覆されようとしていた。


この物語は、リードに踊らされる一人のサクソフォニストとリードの、出会いと別れを綴ったものであるー・・・。



登場人物:
K -サックス専攻の音大生。
ケーンのリード(右)- ケーン(植物)から作られたリード。
レジェール(左)- 樹脂製のリード。




・ω・


「レジェール、良いよ。」
ある夏の日、セッティング(※1)で悩んでいた私に、先生は言った。
「プラスチックとか樹脂とか、今まで良いのないとかおもってたじゃん。全然そんなことなくてさ。俺も今使ってんのよ。」
「レジェールって・・・ 樹脂ですよね。」
「うん、でも普通のリードと吹奏感も変わらないんだよ。シグニチャーってタイプね。」

(※1 マウスピースやリード、リガチャーなど)

この時、私は困っていた。長いこと使っていた道具の消耗が激しい可能性があり、また音色に変化が必要だと言われ、どうしたものかと思っていたのだ。
が、しかし。
実は、既にレジェールを持っていた。だがその時は相性が悪かったのか失敗し、この時の先生の言葉も正直あまり信じていなかった。


通常、リードは0.5ないしは2分の1刻みである。
2、2半、3、3半・・・ というように。
アルトサックスならば、一箱に10本入っており、3000円で少しお釣りが返ってくるぐらいのお値段だ。
レジェールの場合、1本単位で買え、1本で3000円と少し。
これだけ聞くと、普通に箱で3000円程度の通常のリードの方が良いのではないかと思うのだが、レジェールのいい所は試奏をしてから買える。
しかし、通常のケーンから作られたリードは、試奏は出来ないし、何せ吹いているうちに状態変化が激しい。湿度やその日の気候などにも大きく左右されるため、管理もそれなりに神経質になる。


先生の持っているマウスピースに、レジェールのリード。
ちょっと気にはなっている。いや、大分気になっている。
「ちょっと1回これで吹いてごらん。」
そう言われて吹いてみた。ーこれが、私とレジェールの、2度めの初対面であった。

そう、「2度めの初対面」。
おかしい? 日本語としては確かに、おかしい。
しかし、既に知っていると思っていたはずのレジェールではなかった。

それもそのはず、かつて私が持っていたのは硬さを示す番号が「3」のものであった。
この数字は通常ケーンのリードを使っていた時と同じ数字であり、それでいいものかと思っていた。
しかし、先生のマウスピースについているのは、「3 1/4」の数字。
なんと、レジェールは4分の1刻みで硬さのバリエーションがあり、しかも吹いてから購入が出来るので、しっかりと選定がなされているものを先生は私に差し出したのである。

吹いてみて、私は驚いた。

「あなたが・・・ レジェール・・・!?」

「楽器屋で、待ってる。」
間違いなく、レジェールは楽器店の回し者かと言うようなセリフを私に語りかけたようだった。あるいは時をかける少女でも見たんだろうか、このリード。
翌日、私はマウスピース等の道具もついでに一新しようと、友人を連れて楽器屋に向かうことにした。

ケーンのリードAが私に語りかける。
「レジェールにするのか?」
「あいつ、レジェールにするってよ。」
ケーンのリードBも私に語りかけた。
「だってあなた、気分屋ですぐに機嫌悪くしたと思ったら突然私を喜ばせたりとか... もうよくわかんないから...。」
「おい、ちょ、待てよ!! それは俺のせいじゃないさ、K!!」
「気候のせいだったり、魔王のせいだったりするだけさ。」
もう、そんなリードとの不毛な痴話喧嘩をする時間すら惜しい。マウスピースに付けて、良いリードダメなリードと一喜一憂している時間が、レジェールでは省けるのである。
「私は... もうアナタのことで悩みたくないの...!!」
そうして、私はケーンのリードABに告げたのである。
「私達、しばらく距離を置きましょう。」


いざ楽器屋に行ってみると、無事良いマウスピースが見つかり、リガチャーも新しいものを手に入れた。早い。まるで、私の決意を後押しするかのように...!
そしてついに、レジェールを選ぶ瞬間である。

楽器屋により、また在庫状況により異なるのだが、この時は5,6本の在庫の中から選んだ。
レジェールのお値段は1本でケーンのリード一箱(10本)分に相当するが、樹脂の為耐久性に優れており、3ヶ月前後は持つ。ーというのを考えると、経済的でもあり、また状態変化も少ないので天候に左右されないという。
随分と美味しい要素ばかりであるが、だからこそ警戒するのが女という生き物である。

ーそう思っていたのに。

気がつくと、すっかり新しいマウスピース、リガチャー、そしてレジェールという新しいリードを手に入れ、すっかり有頂天になっている私が居た。
練習が楽しみになるゥ〜♪
などと言っている私が居た。

女心と秋の空などとは上手く言ったものだ。
すっかり、頭の中は新しいマウスピース、リガチャー、そしてレジェールである。


家につき、ケースを開けるとケーンのリードABがこちらを見ていた。
その視線は、まるで裏切り者を見るかのような目であった。
「お前は・・・ パンドラの箱を開けたんだ・・・!」
私はそんな声を「いや、ケースを開けただけじゃないか。」などと返し、ケースの奥に追いやった。これでいい、これで良いんだ...

こうして、私とレジェール・シグニチャーの蜜月は始まったのである。
2014年、8月とかそんぐらいのことである。



・ω・



先生のところに早速レッスンで持って行ってみると
「ちょっと重いね。」
などと言われたが、恋は盲目である。そんなもの全く気にせず吹いていた。
「でもリードに対して一喜一憂しなくて良いんで、すっごく良いです。」

何せ、今までは10本をローテーションで吹き、また開封時はケーンに水分をあまり含ませないほうがいいからなどという配慮をする必要があり、最初は数分吹いたらローテーション、などというシステムを作る必要があった。
しかもそれだけ配慮しても、1箱(10本)で使えるリードというのは2,3本残るかどうか。更にはその2,3本すら期間としてはそんなに期待できない。
リードというのは、それだけ難しい問題といえる。
「そんなにオレのこと考えてなかったろ・・・!」というケーンリードAの声も聞こえるが、一応表向きそのぐらい考えているっていうことにしている。から、そういうことでこの後も続ける。



さて、レジェールのおかげで練習の時間をストレスなく確保出来るようになったある日の事。
「もっと、早く出会っていれば良かったのにね。K。」
いつしか、レジェールが私に語りかけてきた。
「俺、前からお前の事気になってたんだぜ。お前は全然気が付かなかっただろうけど、前の先生に習っている時からお前のこと知ってたんだぞ!」
まるで聖司くんである。
「俺なら、お前が外で吹くときも、しばらく休憩して再開した後でもそのまま吹けるんだ。だから、安心して吹いてくれよな。」
だんだんゲームかなんかのキャラクターと化してきたレジェールとの蜜月は、ここからしばらく続き、試験もレジェール。ブラスもレジェール。え・び・え・びで!れじぇぇる!!と替え歌を作れるレベルまでいくほど、レジェールに1本化していくのであった。

この後、翻弄され続けるとも知らずにー・・・。



次回、連続Blog小説「レジェール 〜そのリードは最強か」 第2話、ご期待ください。




って誰がするかッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


〜この物語は個人的な主観を元にしたフィクションです。

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