2015年10月27日火曜日

連続Blog小説「レジェール 〜そのリードは最強か」 第3話

前回までの、「レジェール 〜そのリードは最強か」 。

ずっとケーン(植物)のリードの管理に悩まされていたKの前に突如現れた、レジェールなる樹脂リード。
二人は出会ってすぐに親密になるも、レジェールが怪しいと睨むケーンのリードは黙ってKを見守っていた。
この物語は、樹脂リード・レジェールとケーンのリードの間で揺れるKの女心を綴った物語である。


・・・あれ? 物語変わってね??



登場人物:
K- サックス専攻の音大生。いい音が出て吹きやすいリードだったら正直なんでもいい。
ケーン- ケーン(植物)から作られているリード。別名生(なま)のリード。生、と言われる度に「俺はパスタか!!」と突っ込んでいる。
レジェール- 樹脂製のリード。種類がレジェールと、レジェール シグニチャーとあるが、「真のレジェールは俺だ!」と信じて疑わない。
男女- 薄暗いバーで夜な夜なよもやま話を繰り広げる。今回レジェールが接触するが...?


ΦωΦ


万能なモノ、など存在しないー・・・。
そんなこと、レジェールはとうに知っていた。

「オレもまた、完璧じゃない。そんなこと、わかってる、わかってるんだ・・・!」
レジェールは語気を強めて言った。すっかり酔いが回っていて自制が効かない。
「どうやら、今夜は飲み過ぎたようね、レジェール。」
女は水を差し出し、レジェールに渡した。
「・・・すみません・・・。なんかもうオレ、どうしていいかわかんなくて・・・」
水を一口飲むと、レジェールはうなだれた。
そこに、一人の男が来た。
「どうしたんだよ、若いの。さてはフラれたか?」
「いや・・・ 別にそんなんじゃないんですけど・・・ でもなんていうかもう、どうしていいかわかんなくて・・・」
「まぁ飲めよ。俺で良ければ聞くからよ。マスター、彼に俺と同じのを。」
「ちょっと。今飲み過ぎって水渡したばかりなのに」と女性がオーダーする男を窘める。
「お、そうか。すまないな。」
「いや、ありがとうございます。もうちょっと飲みたいんで・・・」
そう言うと、マスターから差し出されたグラスを手にし、乾杯をした。
「そんで? どうしたんだよ。」
男が目線をレジェールのほうにやると、レジェールは静かに、
「どうやら彼女、元サヤに戻ろうとしてるみたいで・・・。1週間ぐらい前の事なんですけど、」
と言い、ぽつりぽつりと語りだした。

「あいつ・・・ Kって言うんですけど、どうやら音色で悩んでいるみたいだったんです。実際、俺ってタンギングしにくいらしいんですよ、あいつにとって。でも克服してくれたし、フラジオにだって対応出来るから、俺大丈夫かな、って、そう思ってたんですけど・・・
根本の、音色に関してずっとフラストレーションがあったみたいだったんです。でも、俺はその・・・ あいつの気持ちの機微を・・・ 感じ取ってやれなくて・・・。
そんなある日のことです。あいつ、ケーンを買ってきたんです。ケーンのリードを。
前から確かに、ソプラノに関してはケースにケーンのリードが常備されていたから、たまに吹いてたんです。でも結局俺のもとに戻ってきた。
だから、大丈夫だろう、俺はまだ、絶対的な信頼を勝ち得ているだろうって、そう思ってたんです。なのに・・・
気がついたら、新しい箱がもうひとつ増えていた。新しいケーンのリードを手にしてたんです。

それでも、まだ諦めてないんですよ、やっぱり結局オレのところに戻ってくるんじゃないかって、そう思ってるんですよ。だって、オレがいないとあいつ、ダメなんすよ。
ケーンみたいなあんな状態不安定になりやすくて、湿度に弱くて、バランス感だってバラバラしてるじゃじゃ馬、ただでさえKがじゃじゃ馬なんだ。扱えないんですよ。
じゃじゃ馬のKにはオレが必要だって・・・ そう、思ってきたんです・・・。
そういう、オレの強みが、倍音の問題だって克服出来る、ってそう信じてきたんです・・・!」
「倍音?」女が身を乗り出して聞いてきた。
「オレもちゃんとはわかんないんすけど、たまに言うんですよ、あいつが。」
レジェールは、1週間前のKとのやり取りを思い出していた。


(ΦωΦ)


「違うんだよね。アナタとケーン。」
「そりゃそうだよ。」
まだリガチャーとマウスピースに固定されていないレジェールが答えた。
悩ましげな顔のKが続けて
「やっぱ・・・ そろそろ潮時なのかなあ、って」
「え?」
「前々から考えてたの。どうしたほうがいいかって。それに、別にこれで永遠に別れるってわけじゃないんだから。」
「おい、ちょ、待てよ!!」
「あなた、そんなキムタクの安いモノマネで私のココロがつかめるとでも?」
Kがバナナで釘が打てそうな冷たい視線をやった。
彼女は、たまにボケをかましたり、自分がボケをかました時に乗っかってくれる、そして何より吹奏感に無理のないと感じるいまのレジェールが嫌いになったわけではない。
だからこそ、どうしようかと思案していたのだ。
「・・・音がさ。薄っぺらいっていうか・・・ 倍音がないっていうか・・・」
「ば、ばいおん・・・!?」
「いや、実際倍音と呼べる代物なのかはわからないの。でも、やっぱり音のふくよかさが違う、響きが違う、夢が違う、ほくろが違う・・・」
「イミテーションゴールドかよ」
「そう、その反応!やっぱりアナタが今のところピカ一だと思うのよ。あ、ツッコミの、じゃなくて息を入れた時の反応の話よ。」
「だったらどうして・・・! 音か?音のことなら、もしかしたら俺が劣化してきただけの話かもしれないだから他のレジェールに言えばきっと・・・!」
「違うのよ。そうじゃなくて。
いや、それもないわけではないけれど、あなたも樹脂とはいえやはり生きものなのかもしれないって・・・」
そう言うと、Kはリガチャーのネジを緩め、マウスピースからレジェールを取った。

「あなた実は、熱に弱いんじゃない?」

「え・・・?」


次回、連続Blog小説「レジェール 〜そのリードは最強か」 第4話、ご期待ください。


〜この物語は、個人的な主観を元にしたフィクションです。
実在の個人・団体とは一切関係ありません。


黒いのがマウスピース。
そしてそれにくっついてる金色のがリガチャーであるが、
このリガチャーがないとケーンのリードもレジェールも固定出来ないのである。



ちなみに次でラストの予定です。レジェールの運命やいかに!?!?ナンツテー

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